はじめに
演劇を成立させる三要素は諸説あるものの、「舞台・観客・俳優」という分類が一般的です。「舞台」を「台本」や「演出」や「照明」に置き換える説もありますが、「観客」と「俳優」は必須条件です。
チケットも取れない人気を誇る演劇公演は全国でも一握り。大抵の演劇人は他所の舞台の観客を兼ねます。公演のチケットを売りつつ、次回は相手のチケットを買うのです。
そういう相互扶助は限りもあり、なかなか観客総体の数を増やすことには繋がりません。理想は自発的な観客が増えていくことなのですが、その高い壁に演劇人は悩むのです。
あなたが何かのきっかけで芝居を見る側になったとしたら、折角の機会です。辛口の文面を思い浮かべる評論家ではなく、敢えて前のめりで面白がる観客の役柄を楽しんでみてください。
舞台に立つと、客席の雰囲気はかなり正確に伝わってきます。構えず、柔らかい反応の客席から笑いを誘えれば、必ず追い風になります。もしかして失笑の展開に思わず引くあなたに、演者は呼吸を合わせて立ち直ろうとするでしょう。
「技術が透けて見えるだけの演技」を目指す俳優はいません。演技の巧拙ではなく、作品の役柄とその俳優の持ち味が重なって見えてくれば、その「存在感」はきっとあなたに伝わります。
舞台と観客の、独走せず拒否的にならない展開は、必ずや互いの関係を育て合うと信じます。
初代主宰 大宮依子